「失われた30年」

niginigi32012-07-24

 金子勝神野直彦両氏による著書を紹介します。対談形式で書かれているのですぐに読めます。すべてに賛同されなくても、なにがしかのヒントにはなるのではないでしょうか。第1章は「不良債権化する原発」。その中で触れられていますが、賠償のために東電の債権者にまず債権放棄を求めなければならない点などは必須だと思われます。原子力予算の大幅な組み替えも主張されていて、この項は基本的に私は同感です。

 続く第2章の「社会保障と財政」は、今の日本の財政危機を「信じて疑わず」にいる方々にはぜひとも目を通していただきたいと思います。でも、すんなり入っていかないかもしれません。苦手な食べ物が飲み込めないのと同じように、異説は受け入れがたいという面があるでしょう。ブレトン・ウッズ体制の崩壊(1973年)、変動相場制への移行によって福祉国家の否定、新自由主義の台頭が根拠付けられたという基本認識は共有できるでしょうか。なぜ新自由主義は「絆」を強調するのか(同書108ページ)、通貨を増やせばデフレはなくなる?(111ページ)なども、知らないとつい政府の言う通りと思ってしまいかねません。

 以下、TPPのウソ、逆転への提言、と章は続きます。

 国会審議がこれらの提言に応える論議になるかどうかははなはだ疑わしいものですが、本書は近づく総選挙の際にどういう視点で候補者を選択するか、考える材料になるでしょう。レベルが上がらない議論を聞かされるフラストレーションを解消する意味もありそうです。

 また、「東電国有化の罠」(ちくま書店・町田徹氏)も、あわせてオススメできるかと思います。