人命
人名を優先するということが通用しない世界に対して、いくらテロとの戦争を強調しても解決しないことは、かつての米ブッシュ政権が示してきたと思います。武力による制圧は、結局何を残してきたのか、よくよく考えなければなりません。
昨日の東京新聞の記事で、直接的にではありませんが、フランスの対アフリカ政策のあり方について、問題提起をしたいのではないかと感じられるものがありました。以下に一部紹介をしますが、
(前略)オランド仏大統領はアルジェリア軍の強引さに批判が集まる中、一貫して支持。「フランス軍のマリ介入がさらに正当化された」と繰り返している。
フランス軍は十一日からマリ北部の反政府勢力の拠点を爆撃。同国へ二千人規模の兵力を投入している。人質事件では、犯行集団がこのマリ侵攻作戦の中止を要求していた。
マリは二十世紀初頭に、フランスが各地方を統合して植民地支配した。独立後、豊かな南部と貧しい北部の格差が拡大。それが一因となり、北部の遊牧民トゥアレグ族の分離独立運動が続いてきた。
世俗的な運動だったが、やがてイスラム勢力が合流し、主導権を握った。加えて「アラブの春」でリビア旧政権から武器も流入し、反政府勢力の戦闘力は飛躍的に高まった。
昨年四月、反政府勢力は北部を制圧。これに対し、政府軍は九月に検問所で拘束したイスラム法学者十六人を裁判抜きで処刑するなど徹底弾圧。しかし、政府軍の北部出身者が集団離脱し、反政府勢力に転身するなど、北部反政府勢力の攻勢が強まっていた。
一方、マリ北部は隣国ニジェールとともにウランなど鉱物資源が豊かで、原子力産業が盛んなフランスにとり大切な地域。安い労働力とともに、その権益を重要視している。
(中略)
経緯を見ると、マリ紛争は「新植民地主義」に対する分離独立闘争の色合いが濃い。しかし、フランスは反政府勢力を「テロリスト」と主張。アルジェリアの人質事件と一括りにし、侵攻の正当化に躍起になっている。
というものでした。
日本をはじめとする「先進国」の利害からだけ、アフリカ諸国の問題の解決を考えることはできない、そうした視点からの報道のいかに少ないことか、私はそこが気がかりでなりません。テロの撲滅などといくら主張をしたところで具体的な解決策は何一つ見当たらず、自衛隊云々についてはもはやマイナスの効果しか生まないだろうと思います。
■「アメリカは日本経済の復活を知っている」
信頼する先輩氏からお借りしたこの表題の書籍について、紹介をしておきます。イエール大学名誉教授・浜田宏一氏が著したもので昨今注目されているものです。
ほとんどを読みましたが、デフレ脱却というのは多くの人が望んでいると思っていましたが、同床異夢というか、ずいぶんニュアンスが違うものだということがわかります。逆に言えば、デフレを問題視していたのは左から右まで、幅が広いものでもあったということも事実のようです。
国内議論の範囲に限定されるとはいえ、同書の趣旨には共感する部分が多くあります。それは、この間の政治が、明らかに財務省主導の、財政至上主義とでもいうもので、日銀の無策を擁護してきたものだからでしょう。同署の立場が幾分、小泉構造改革、新自由主義批判がないために完全には同感とまでは言いにくいものがありますが、高橋洋一、若田部昌澄、などとは共有していることが多いとする著者のスタンスは私と近いのかとも思います。藤原正彦、とは私は対極だと言わざるをえませんが。
経済学の基礎のような分かりやすい書なので、読み解くには時間を要しませんが、ただ、ぜひ若い世代には、ボタン一つですぐに答えが得られる安易な道をあえて選ばずに、書物を紐解きあれを調べこれを調べしながら、正解を導こうとする苦労を厭わないでいただきたいと願い、その導入としてぜひ読んでもらえたらと思います。
あまり多くを述べてしまうと興味を失わせてしまいかねませんが、小沢無罪についてのマスコミ報道のあり方などにまで踏み込んで批判をしている点などは、一面的な見方が世の中を支配しがちな現代において、ぜひ違った視点というのも知っておいて欲しいです。深く考えるためにこそ、違った考え方に接せる価値があるというものです。
章立て、のいくつかを最後に紹介して(面白そうでしょう?)終わります。
第1章 経済学200年の常識を無視する国
第2章 日銀と財務省のための経済政策
第3章 天才経済学者たちが語る日本経済
第4章 それでも経済学は日本を救う
第5章 2012年2月14日の衝撃
第6章 増税前に絶対必要な政策 ほか
貸していただいた尊敬する先輩に敬意を表して(おそらく先輩氏はもっと同書に対してもっと批判的に捉えていらっしゃるとは思うのですが。あえて肯定面を強調した紹介となったことはお叱りを受けるかもしれません)。
なお、人命、ということで言えば本書の冒頭あたりでは日銀の舵取りしだいで中小企業などの経営は変わる、自殺者の1万人ほどの、経済的な原因で死ななければならないような事態を避けられるはずだという主張には頷けます。